小さな恋のトライアングル
陽だまりのように
「おかえりなさーい!」

玄関を開けると、岳と真美が元気良く出迎えてくれ、潤は思わず頬を緩めた。

「ただいま」

温かい部屋の空気と明るい二人の笑顔に、胸いっぱいに幸せが込み上げてくる。

思えば、部屋に帰って来て誰かに出迎えられるなんて、ひとり暮らしを始めてから一度もなかった。

「じゅん、はやかったな。せっかくまみとふたりであそんでたのに。もっとゆっくりしてこいよ」

岳の言葉に、潤は、ええ?!と驚く。

「なんか、邪魔者が帰って来た、みたいに聞こえるんだけど?」
「まあ、いいってことよ」
「良くねーよ!」

まあまあと、真美が取りなす。

「課長、晩ご飯にしましょ。手を洗って来てください」
「ああ、分かった」

寝室で着替えも済ませてからダイニングに行くと、真美と岳が仲良く食器を並べていた。

「まみ、これおかしじゃないの?」
「ふふっ、そう見えるでしょー?でも違うんだよー」

なんだ?と潤は皿を覗き込む。
パリパリの茶色い麺が載っていた。

「あ、ひょっとして皿うどん?」
「正解です!」

すると岳が首をひねる。

「なんでこれがうどん?パリパリラーメンじゃないの?」
「確かに。言われてみたらそうだな」

潤も首を傾げると、真美が笑いながら口を開く。

「見た目がお皿に盛った焼きうどんみたいだから、とか諸説あるみたいですけど、確かにうどんって呼ぶのは違和感ありますね。『あんかけかた焼きそば』の方が分かりやすいかも」
「ああ、そうだな」

潤は頷くが、岳はまたしても怪訝そうにする。

「あん?え、あんこをかけるの?こしあん?つぶあん?」
「あはは!がっくん、あんこはかけないよ。あんっていうのは、トロッとした具のことなの。ほら、これだよ」

そう言って真美は、フライパンを持って来て岳に見せる。

「これを載せる前に、がっくん、このパリパリを小さく砕いてくれる?手でパリパリするの」
「わかった!」

岳は椅子によじ登り、皿の上でパリパリと麺をほぐしていく。

「パリパリ、おもしろーい」
「ふふっ、感触が楽しいよね。それくらいでいいかな?じゃあ、あんをかけるよ」
「うん!」

真美はフライパンを傾け、トロリと野菜たっぷりのあんをかけた。

「おいしそう!たべてもいい?」
「うん。あ、待って。もう一つあるんだ」

そう言って真美は、レタスとそぼろ肉をテーブルに運んで来た。

「これはなに?」
「お肉のレタス包みだよ。レタスの上にこのパリパリとお肉を載せて、お布団みたいに巻いて食べるの」
「やりたい!」
「ふふっ、じゃあ早速食べようか」

3人で席に着き、いただきます!と手を合わせる。

岳は小さな手でレタスを取り、パリパリの麺とそぼろ肉を載せると、ムギュッと丸めてから大きく口を開けてかぶりついた。

「んー、おいしい!パリパリしてる!」
「ふふっ、良かった。皿うどんも食べてね」
「うん!」

岳はモグモグと勢い良く平らげていく。

「へえー、岳がこんなに野菜を食べるなんて。レタスはいつも嫌がるのに」

潤が感心したように呟く。

真美は声を潜めて潤に囁いた。

「課長、あの野菜あんかけ、実は細かくしたピーマンも入ってるんです」
「え、そうなの?岳、絶対気づいてないよ」
「知らない間に食べちゃってますよね。ふふふ」

潤と真美の会話も耳に入らないほど、岳は夢中になって食べていた。
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