小さな恋のトライアングル
「まきまき、てまきー!」

夕食の支度を手伝いながら、岳は早くもテンションが高い。

「楽しみだね、手巻き寿司。がっくん。うちわでパタパタをお願いしてもいい?」
「うん!なんでもこいよ」
「あはは!頼もしいね。じゃあ、私がご飯に寿司酢を混ぜていくから、がっくんはひたすらご飯をパタパタ冷ましてね。いくよー?パタパター!」
「パタパター!」

楽しそうにはしゃぐ二人の声を聞きながら、潤も思わず笑みを浮かべる。

先程真美に、あと2週間で岳がここを出て行くと話し、真美にも、もう課長との接点は何もないと言われた時、一気に寂しさが込み上げてきた。

(この楽しい日々は幻だったのかな。夢の世界だったのかも。いつかは現実に戻される)

以前と同じ生活に戻るだけなのに、どうしてこうも悲しくなるのか。

それならいっそ、この日々などなかった方が良かったのか?

二人と過ごす幸せを知らなければ、こんなにも寂しい思いをせずに済んだ。

のちに寂しさを感じてしまうほど大きな幸せと、何気ない日々の中に感じるふとした幸せ。
どちらの方が喜びは大きい?

それでも……と潤は思う。

(たとえこのあと悲しみに襲われるとしても、俺はこの幸せな日々を送れたことに感謝する)

潤はもう一度楽しそうな真美と岳に目をやり、幸せを感じて微笑んだ。
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