小さな恋のトライアングル
「はあ……、なんだかもう寂しくて。私、今夜は寝られそうにありません」

岳達を降ろしたあとの車内。
真美のマンションに向かいながら、早くも真美は意気消沈する。

「あんなにずっと一緒にいたのに、もう会えないなんて。今日からは一人で寝るなんて、やっぱり無理です、私」

そんなこと言われても……、と潤は言葉に困る。

「がっくんが隣にいないなんて、眠れそうにありません。朝起きてもがっくんがいないなんて……。私、明日からどうやって生きていけばいいんでしょう」
「あのな、望月」

眉根を寄せながら、潤は口を開いた。

「えーっと、とりあえず望月は岳がいなくても生きていける」
「どうしてそんなこと言うんですか?課長!」

思いのほか強い口調が返ってきて、潤はひるむ。

「え、だ、だって、そうだから。案外、ケロッとして寝られると思うぞ?別に失恋した訳じゃないしな」
「ひどい!課長、私の気持ちを何も分かってないんですね?」
「でもほんとだろ?望月、彼氏と別れたんじゃないんだぞ?」
「彼氏と別れた時よりも辛いです」

ええー?!と潤はショックを受けた。

(彼氏と別れた時?それって、いつだ?いや、待て。それよりも辛い?望月って、本気で岳のことを?)

あまりに動揺してしまい、真美のマンションの前をスーッと通り過ぎてしまった。

「課長?どこまで行くんですか?」
「え、ああ!ごめん。今引き返すから」

なんとか無事にたどり着くと、トランクから真美のスーツケースを下ろした。

「じゃあ、ここで。望月、色々と本当にありがとな」
「いえ、こちらこそ。お世話になりました」

明らかに生気のない声で真美は呟く。

「えっと、大丈夫か?部屋まで荷物運ぼうか?」
「大丈夫です。世界が色褪せちゃった今、この荷物をガラガラと引っ張るのが私にはお似合いですから」
「も、望月。だいぶ変だぞ?」
「ええ。がっくんに会えないなら、私はもう、魂のない抜け殻です」
「ちょ、ほんとに大丈夫か?何か俺に出来ることはあるか?」
「何もないです。がっくんじゃないので」

ガーン!と潤は打ちのめされた。

「それでは、ごめんなすって」

真美の変な口調にも気づかず、潤は一人取り残されたまま呆然と立ち尽くしていた。
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