小さな恋のトライアングル
ランチは大きな窓から外の景色が眺められるカフェに入った。

「カフェでランチなんて、久しぶりです。気持ちいいですね」

窓の外に広がる緑豊かな景色。
行き交う楽しそうな家族連れやカップル。

真美はその様子を微笑んで眺めている。

「あそこにいる小さな男の子、可愛い!がっくんと同じくらい。4歳かな?妹ちゃんもいるんだ。おてて繋いであげて、優しいなあ」

とろけそうなくらい優しい眼差しになる真美に、潤は聞いてみた。

「望月って、やっぱり子どもはたくさん欲しいの?」
「んー、考えたことないです」
「そうなの?そんなに子ども好きなのに?」
「え?私って子ども好きですか?」
「どう見てもそうでしょ」
「そうなんですか?」

キョトンとする真美に、潤も負けじと目を点にする。

「自覚ないの?あんなに岳に優しいのに」
「がっくんのことは大好きです。でもそれって子ども好きだからっていうよりは、相手ががっくんだからです。私、がっくんのことが大好きなので」

そんなに何度もがっくんがっくん言わなくても……と、潤は眉を八の字に下げた。

「がっくん、これからどんどん大きくなるでしょうね。楽しみだなー。どうしよう、小学校に入学する時には涙が出ちゃうかも。こっそり遠くから、がっくんのランドセル姿見に行こうかな」
「それって、我が子の場合は考えないの?」
「うーん……。我が子というよりは、これから自分が誰かと恋愛して結婚してっていうのが想像つかないです。それよりも、今近くにいるがっくんが可愛くて!一緒にいるだけで心が癒やされます」
「そう、なんだ」

今、自分は目の前にいるんだけど……と潤はいじける。

そっと視線を上げると、真美は窓の外の家族連れを目で追っては微笑んでいた。

(自分の恋愛には興味がないんだろうな。誰かに愛されたいとか、守って欲しいって気持ちもない。きっと岳を見守る母親の心境なんだろう。それって、じゃあ俺はどうすればいい?)

心の中で自問自答する。

会社では控えめで大人しい真美と、これまで仕事以外の話をしたことはなかったが、岳と一緒にいるところを見られてからは、一気に距離が縮まった。

こんなにも心優しく温かく、愛情に満ち溢れた人だったとは。
岳の気持ちに寄り添い、大きく包み込む強さを持った人、
清らかで純粋で、真っ直ぐに岳と向き合う綺麗な心の持ち主。

そんな真美のことを、潤はいつの間にか愛しくてたまらなくなっていた。

(だけど俺が望月を見つめていても、望月はそれに気づかず岳に目を向けたままだ。岳も望月を信頼し切って、二人で見つめ合っている)

自分の恋の矢印は、一方通行。
真美は振り返ってくれもしない。

(だからと言って、俺は望月を諦めない。振り向いてくれるまで、何度でも想いを伝えよう)

今夜がそのチャンスだ。
必ず告白する。

潤はそう決意した。
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