小さな恋のトライアングル
テーブルで会計を済ませると、スタッフがカードキーを潤に渡した。
受け取ると潤は立ち上がり、真美の椅子の横まで来て腕を取る。
「望月、立てるか?」
「はい、大丈夫です」
すくっと勢い良く立ち上がった真美は、次の瞬間ふらりとよろめいた。
「ほら、やっぱり。しっかり掴まって」
潤は真美の腕を支えながら店を出ると、エレベーターホールへと向かう。
カードキーを挟んでいるカバーを開いて部屋番号を確かめ、28階へ移動した。
「望月、ほら。ソファに座って」
部屋に入ると、窓の近くのソファまで行って真美を座らせる。
「今、お水持って来るから」
「ありがとうございます。課長、お部屋の模様替えしたんですね」
は?と潤は真美を振り返った。
「前はテレビって、もっとこっちにありませんでしたか?」
潤は眉間にしわを寄せてから、ため息をつく。
(おいおい、俺のマンションに来たんじゃないよ。こりゃ、かなり酔ってるな)
とにかく酔いを醒まそうと、ソファの隣に座って真美に水を飲ませた。
真美はごくごくと水を飲むと、ふう、と背もたれにもたれてウトウトし始める。
「望月、コート預かる」
フレンチレストランを出た時に着たままの白いロングコートに手をかけると、真美はどうぞと言わんばかりに両手を上げた。
「いや、バンザイはしなくていいから」
ストンと手を下ろした真美は、潤がボタンを外すのをされるがままになっている。
全てのボタンを外すと、潤は真美のコートの前を開いた。
綺麗な鎖骨のラインが目に入って、思わずドキッとする。
慌てて目を逸らしながら、真美の腕をコートの袖から抜こうとした。
「望月、肘曲げられるか?」
「ううん」
「ううんって……。ちょっとだけクイッてやって」
「ん……だめ」
甘ったるい声に、潤の身体が熱くなる。
「いやいや、あのな?望月。コートを脱がないと暑いだろ?それにしわしわになるから、脱いでハンガーに掛けておこう」
「ん……、だって、眠くて無理。やって?」
「やややって?いや、うん。分かった。やる。コートを脱がせるだけだからな」
己に言い聞かせてから、潤は真美の背中に腕を回して抱き寄せた。
そこから片方ずつ腕を抜き、また背もたれに真美の身体を戻す。
最後に自分の身体を離そうしたが、なぜだか離れない。
なんだ?と思っていると、真美が背中に両腕を回して抱きついていた。
「望月、ちょっと……。離して」
そう言うと、どうやら耳に息がかかったらしく、ピクンッと真美の身体が跳ねた。
「ん……、くすぐったい」
甘く囁く真美の声に、今度は潤の身体がカッとなった。
「望月、だめだ」
真美の両肩を掴んで、グイッと自分の身体から引きはがす。
「……課長」
頬を赤らめたままの真美は、潤んだ瞳で見上げてきた。
「なんだ?」
「私、ずっと一人でも平気だと思ってたんです」
いきなり何の話だ?と思いつつ、潤は黙って耳を傾ける。
「休みの日に遊ぶ友達もあんまりいなくて、もちろん恋人も出来なくて。でも一人の方が気楽でいいかって思ってました。ずっとそれでも平気だったんです。だけど、がっくんと一緒に暮らし始めて、課長と3人で毎日とっても楽しくて……。あの日々が終わってから、味わったことないほどの寂しさに襲われました。幸せが大きかった分、反動で一気に同じだけの悲しみに暮れました。前に課長、言ってくださいましたよね?『一人で抱え込むな。無理に気持ちを抑え込むな。俺になら何を話してくれてもいい。俺は絶対的に望月の味方だから』って」
そこまで言うと、真美はぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「課長になら、弱音を吐いてもいいですか?気持ちを打ち明けてもいいですか?寂しいって……。心細くてたまらないって、頼ってもいいですか?」
「望月……」
潤はたまらず真美を抱きしめた。
「ああ。俺になら何を言ってもいい。どんな気持ちを打ち明けてくれてもいい。いつでも俺を頼れ。俺はずっと、いつまでも望月の味方だ。誰よりもお前のそばで、お前を守っていくから」
「課長……」
真美は潤の腕の中で、身体を震わせて泣き続ける。
「望月、もう一人でがんばらなくていい。寂しい夜を一人で過ごさなくてもいい。これから先、一生俺のそばを離れるな。お前はもう、一人じゃないんだ」
頭をなでながら耳元で言い聞かせる。
しゃくり上げて涙を堪えた真美が、そっと潤の顔を見上げた。
「望月、俺はお前が好きだ。誰よりもお前が愛おしい」
「課長……。でも私、そのうち捨てられるんじゃ……」
「バカ、誰がそんなことするか。お前がどんなに俺に愛されてるか、これから嫌ってほど分からせてやる」
「……?どうやって?」
潤んだ瞳で小首を傾げる真美に、潤はドキッとする。
「おまっ……、煽りの天才か?」
「えっ、だって、本当に分からなくて」
「こうやってだよ」
潤は真美の背中に左腕を回して抱き寄せると、右手で頭を抱え込んで深く口づけた。
真美は目を見開いて身体を固くする。
ゆっくりと身体を離すと、潤は真美の瞳を覗き込んだ。
「分かった?」
「……ううん、あんまり。びっくりして、何が起こったのか分からなくて」
「お前なあ……。ほんと、天才だわ」
そしてもう一度、真美の瞳をじっと見つめる。
「じゃあ、今度は目を閉じてて」
「……うん」
潤は、素直に目を閉じた真美のあどけない顔に胸を切なくさせながら、今度はそっとキスをした。
長く、優しく、愛を込めて。
真美の身体から力が抜けていく。
潤はますます強く真美を抱きしめた。
愛してる
ずっとそばにいるから
俺が一生守っていく
心に語りかけてくる潤の想いに、真美は胸がいっぱいになる。
真美の頬にスッと涙が流れて唇に落ちると、潤はそれをチュッとキスで拭った。
名残惜しむように唇が離れ、真美は小さく吐息をつく。
「伝わった?」
「……うん」
「じゃあ、返事を聞かせてくれる?」
言われて真美は顔を真っ赤にする。
「ん?何も聞こえないけど?」
おどけて耳を寄せると、真美は拗ねたような表情を浮かべて潤を上目遣いに見上げてから、意を決して目を閉じる。
潤の肩に手を置くと、真美はチュッと潤の左頬に可愛いキスをした。
今度は潤が顔を真っ赤にさせる。
「やべ、可愛過ぎ……」
たまらないとばかりに、潤はまた真美を抱き寄せて口づける。
「大好きだよ、真美」
「私も。あなたのことが大好きです」
耳元で囁き合い、二人はまたキスを交わした。
受け取ると潤は立ち上がり、真美の椅子の横まで来て腕を取る。
「望月、立てるか?」
「はい、大丈夫です」
すくっと勢い良く立ち上がった真美は、次の瞬間ふらりとよろめいた。
「ほら、やっぱり。しっかり掴まって」
潤は真美の腕を支えながら店を出ると、エレベーターホールへと向かう。
カードキーを挟んでいるカバーを開いて部屋番号を確かめ、28階へ移動した。
「望月、ほら。ソファに座って」
部屋に入ると、窓の近くのソファまで行って真美を座らせる。
「今、お水持って来るから」
「ありがとうございます。課長、お部屋の模様替えしたんですね」
は?と潤は真美を振り返った。
「前はテレビって、もっとこっちにありませんでしたか?」
潤は眉間にしわを寄せてから、ため息をつく。
(おいおい、俺のマンションに来たんじゃないよ。こりゃ、かなり酔ってるな)
とにかく酔いを醒まそうと、ソファの隣に座って真美に水を飲ませた。
真美はごくごくと水を飲むと、ふう、と背もたれにもたれてウトウトし始める。
「望月、コート預かる」
フレンチレストランを出た時に着たままの白いロングコートに手をかけると、真美はどうぞと言わんばかりに両手を上げた。
「いや、バンザイはしなくていいから」
ストンと手を下ろした真美は、潤がボタンを外すのをされるがままになっている。
全てのボタンを外すと、潤は真美のコートの前を開いた。
綺麗な鎖骨のラインが目に入って、思わずドキッとする。
慌てて目を逸らしながら、真美の腕をコートの袖から抜こうとした。
「望月、肘曲げられるか?」
「ううん」
「ううんって……。ちょっとだけクイッてやって」
「ん……だめ」
甘ったるい声に、潤の身体が熱くなる。
「いやいや、あのな?望月。コートを脱がないと暑いだろ?それにしわしわになるから、脱いでハンガーに掛けておこう」
「ん……、だって、眠くて無理。やって?」
「やややって?いや、うん。分かった。やる。コートを脱がせるだけだからな」
己に言い聞かせてから、潤は真美の背中に腕を回して抱き寄せた。
そこから片方ずつ腕を抜き、また背もたれに真美の身体を戻す。
最後に自分の身体を離そうしたが、なぜだか離れない。
なんだ?と思っていると、真美が背中に両腕を回して抱きついていた。
「望月、ちょっと……。離して」
そう言うと、どうやら耳に息がかかったらしく、ピクンッと真美の身体が跳ねた。
「ん……、くすぐったい」
甘く囁く真美の声に、今度は潤の身体がカッとなった。
「望月、だめだ」
真美の両肩を掴んで、グイッと自分の身体から引きはがす。
「……課長」
頬を赤らめたままの真美は、潤んだ瞳で見上げてきた。
「なんだ?」
「私、ずっと一人でも平気だと思ってたんです」
いきなり何の話だ?と思いつつ、潤は黙って耳を傾ける。
「休みの日に遊ぶ友達もあんまりいなくて、もちろん恋人も出来なくて。でも一人の方が気楽でいいかって思ってました。ずっとそれでも平気だったんです。だけど、がっくんと一緒に暮らし始めて、課長と3人で毎日とっても楽しくて……。あの日々が終わってから、味わったことないほどの寂しさに襲われました。幸せが大きかった分、反動で一気に同じだけの悲しみに暮れました。前に課長、言ってくださいましたよね?『一人で抱え込むな。無理に気持ちを抑え込むな。俺になら何を話してくれてもいい。俺は絶対的に望月の味方だから』って」
そこまで言うと、真美はぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「課長になら、弱音を吐いてもいいですか?気持ちを打ち明けてもいいですか?寂しいって……。心細くてたまらないって、頼ってもいいですか?」
「望月……」
潤はたまらず真美を抱きしめた。
「ああ。俺になら何を言ってもいい。どんな気持ちを打ち明けてくれてもいい。いつでも俺を頼れ。俺はずっと、いつまでも望月の味方だ。誰よりもお前のそばで、お前を守っていくから」
「課長……」
真美は潤の腕の中で、身体を震わせて泣き続ける。
「望月、もう一人でがんばらなくていい。寂しい夜を一人で過ごさなくてもいい。これから先、一生俺のそばを離れるな。お前はもう、一人じゃないんだ」
頭をなでながら耳元で言い聞かせる。
しゃくり上げて涙を堪えた真美が、そっと潤の顔を見上げた。
「望月、俺はお前が好きだ。誰よりもお前が愛おしい」
「課長……。でも私、そのうち捨てられるんじゃ……」
「バカ、誰がそんなことするか。お前がどんなに俺に愛されてるか、これから嫌ってほど分からせてやる」
「……?どうやって?」
潤んだ瞳で小首を傾げる真美に、潤はドキッとする。
「おまっ……、煽りの天才か?」
「えっ、だって、本当に分からなくて」
「こうやってだよ」
潤は真美の背中に左腕を回して抱き寄せると、右手で頭を抱え込んで深く口づけた。
真美は目を見開いて身体を固くする。
ゆっくりと身体を離すと、潤は真美の瞳を覗き込んだ。
「分かった?」
「……ううん、あんまり。びっくりして、何が起こったのか分からなくて」
「お前なあ……。ほんと、天才だわ」
そしてもう一度、真美の瞳をじっと見つめる。
「じゃあ、今度は目を閉じてて」
「……うん」
潤は、素直に目を閉じた真美のあどけない顔に胸を切なくさせながら、今度はそっとキスをした。
長く、優しく、愛を込めて。
真美の身体から力が抜けていく。
潤はますます強く真美を抱きしめた。
愛してる
ずっとそばにいるから
俺が一生守っていく
心に語りかけてくる潤の想いに、真美は胸がいっぱいになる。
真美の頬にスッと涙が流れて唇に落ちると、潤はそれをチュッとキスで拭った。
名残惜しむように唇が離れ、真美は小さく吐息をつく。
「伝わった?」
「……うん」
「じゃあ、返事を聞かせてくれる?」
言われて真美は顔を真っ赤にする。
「ん?何も聞こえないけど?」
おどけて耳を寄せると、真美は拗ねたような表情を浮かべて潤を上目遣いに見上げてから、意を決して目を閉じる。
潤の肩に手を置くと、真美はチュッと潤の左頬に可愛いキスをした。
今度は潤が顔を真っ赤にさせる。
「やべ、可愛過ぎ……」
たまらないとばかりに、潤はまた真美を抱き寄せて口づける。
「大好きだよ、真美」
「私も。あなたのことが大好きです」
耳元で囁き合い、二人はまたキスを交わした。