小さな恋のトライアングル
「それでは!今年も色々ありましたが、一年間お疲れ様でした。かんぱーい!」

乾杯の音頭を取った伊藤に、おまえが言うか?!と突っ込んでから、皆は一斉に、かんぱーい!とグラスを掲げる。

これ以上一緒にいたら身がもたないと、真美は潤から遠く離れた席に着いていた。

若菜も隣にやって来て、元サヤに戻った彼との話を始める。

「やっぱり気持ちが安定しますよねー。なんて言うか、誰かがそばにいてくれる安心感。もう、好きとかトキメキとかは二の次です。とにかく横にいてって。冬だし寒いからって」
「それ、ホッカイロじゃだめなの?」

紗絵が枝豆を口に放り込みながら言う。

「だめですよ!カイロは動かないし、しゃべらないもん」
「じゃあ、ペットのワンちゃんは?」
「あっ、その手があったか!」

酔っているのかシラフなのか分からない二人の会話を聞きながら、真美は皆があまり手を付けていない料理を一人で味わっていた。

このつくねのタレ、美味しい!どういう味付けなんだろう、と思っていると、若菜が真美にグッと顔を寄せてくる。

「真美さん、なんだか妙に大人の余裕が感じられるのは気のせいですか?」
「へ?なあに、大人の余裕って」
「なんかこう……。見えない誰かに守られているような?」
「え、やだ。幽霊に取り憑かれてるってこと?」
「そうそう。座敷わらしに……って、違いますよ!」

ノリツッコミをしたあと、若菜は腕を組んで思案する。

「うーん、なんだろう?進むべき幸せな道を見つけたの!みたいな?」
「え、なに?それ」

そう言いつつ、真美は内心ギクリとしていた。

言われてみるとそうかもしれない。

(若菜ちゃんって、鋭いなあ)

これ以上勘ぐられないようにと、真美は紗絵に話を振った。

「紗絵さんは?おつき合いされてる彼とは、どんな感じなんですか?」
「ん?ああ、旦那になったの」

……は?と、真美と若菜は同時に固まる。

「彼が、旦那に?って……。ええー?!ひょっとして」

結婚ー?!と、真美と若菜は思わず手を取り合う。

「まあ、結婚っていうよりは、区役所に紙を出しただけなんだけどね」
「婚姻届ですよね?立派な結婚ですよ!いつプロポーズされたんですか?どんな流れで?」

若菜はもう黙っていられないとばかりに身を乗り出した。

「なんかさ、今年一年、やり残したことはないかって話してて。そう言えば、今年こそは結婚しろって、お互い親にうるさく言われてたねって。また正月に帰省したらうるさく言われるんだろうなー。じゃあ、黙らせるかって、そんな感じよ。年末大掃除的なノリで、つい2週間前にね」
「ええー?!いやいやいや、そんな流れで結婚する人、初めてお会いしました。まあ、気が合うと言えばものすごく合うんでしょうね。紗絵さんと、その旦那様」
「まあね。若菜と似たようなもんかもよ?ホッカイロよりは暖かくていいかなって、私もそんな感じ。愛してるだのなんだので一生盛り上がれないし、疲れちゃうから。凪いでるのがいいの、私はね」
「はあ……。なんか、人生って人それぞれですね。条件のいい相手より、気が合う相手を重視した方がいいのかな?」

若菜の呟きに、紗絵は、うーん、と頬杖をつく。

「まあ、そこも人それぞれじゃない?お金持ちと結婚して、経済的に余裕がある生活を送るのが一番幸せだと感じる人、お金はなくても一途に自分を愛してくれて、精神的な安心感をくれる相手といるのが幸せだと感じる人。色んな考え方がある。自分が幸せだと感じたら、それが正解なのよ、きっと」
「ふーん……。奥深いですね、結婚って。究極の人づき合い、みたいな?」

若菜のその言葉に、真美は反応してしまう。

(結婚は究極の人づき合い……。私、大丈夫なのかな?)

潤と結婚したい。
その気持ちに嘘はない。

だが、果たして潤は?
いざ結婚して何年か経てば、やっぱり別れてと言われるのだろうか?

(ただでさえ人づき合いが苦手な私が、究極の人づき合いなんて……)

すると紗絵が顔を覗き込んできた。

「真美?どうかした?」
「いえ!何でもないです」

真美は慌てて首を振り、小さな不安を胸の奥にしまいこんだ。
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