『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~  【新編集版】
 6月1日に届いたメールに衝撃を受けた。
 異業種交流会で知り合ったベテラン経営者から送られてきたもので、彼とはしばらく会っていなかった。
 新型コロナ騒動が始まってからだから3か月近くになる。
 異業種交流会やセミナーはすべて休止になっているのだ。
 
 彼は変人・奇人が大好きな経営者で、「もし『君は変わっている』と言われたら、自分は時代の最先端を行っていると思いなさい」と口癖のように言っていた。
 懇親会の席では必ず「凡人が経営してはならない。常識人が経営してはならない。秀才が経営してはならない。彼らは変化を生みだすことができないからだ。奇跡を起こすことができないからだ。では、変化を生みだし奇跡を起こせる人は誰だ? それは、変人と奇人だ。彼らこそが時代の求める人財なのだ」と真っ赤な顔で力説していた。
 また言ってる、とみんなは呆れていたけど、彼はまったく気にせず、そのうちわかるよ、とでもいうように開会や中締めの挨拶の時には必ずこのフレーズを口にした。
 
 彼の名前は、先見(さきみ)(とおる)
 大手出版会社に入社後、一貫してビジネス書部門に所属し、取締役として10年間務めた。
 書籍販売全体が落ち込む中、堅調な実績を残していたが、なんの前触れもなく再任しないと告げられたそうだ。
 それも酷い言われ方だったらしい。
「辞めて他で働かれますか? それとも顧問として残りますか?」と言われたらしい。
 自分より年下の常務が平然と言い放ったという。
「人間として最低だよね」と眉間に皺を寄せた顔が瞼の裏に浮かぶと、「疎まれたんだよ」と両手を広げた姿も浮かんできた。
 しかし、このメールを読む限り、気概は失っていないようだ。
 文面に彼らしさが溢れ出ているので一時の怒りや落ち込みを乗り越えたのかもしれない。
 正直ほっとした。

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