『変化を生み出し奇跡を起こす』【新編集版】
 さて、先見さんのメールを受信してから1週間が過ぎてしまった。
 すぐに返信しようと思ったが、なかなか文面が決まらず何度も修正したから思いの外時間がかかってしまったのだ。
 それでも、なんとかまとまったので送信することができた。
 
『感染者数がやっと落ち着き、一安心というところですが、いかがお過ごしでしょうか。
 気を緩めることはできませんが、なんとかこのまま収束に向かって欲しいですね。

 ところで、勤務する大学は休校が続き、講義をすることも研究をすることもままならない日々が続いています。
 しかし、この期間を無駄にしたくないと思い、異質学に関する国内外の文献を読み漁っています。
 ただ、変化のない単調な毎日に淀んでいるのも事実です。
 そんな折、メールをいただき、一瞬にして気合が入りました。
 いつにも増して鋭い先見節に思わずガッツポーズを作ったほどです。
 新型コロナ感染をネガティヴに考えるのではなく、変化・変革へのチャンスと捉えなければならないと言われることにはまったく同感ですし、ゲームチェンジをするためには変人・奇人の発掘と抜擢が必須であると断言されたことには我が意を得たりという思いを抱いております。

 ご承知の通り、わたしの専門である異質学は同質を排することの重要性を極める学問ですので、平時には見向きもされません。
 ですので、長期政権が続く安定した時代には不人気を甘受するしかありませんでした。
 当然のように受講する学生が減り、ガラガラの教室を見回してはため息をついてばかりいました。
 しかし、それも過去の話になりそうです。
 先見さんの言われる変人・奇人論をきっちり体系化できれば、新しい時代の異質学の根幹になるのではないかと思いました。
 つきましては、ご多忙とは存じますが、一度時間を取っていただいてお話を窺えれば幸甚(こうじん)に存じます。
 ご検討のほど、よろしくお願いいたします』

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