『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~  【新編集版】
 紅葉のプラハから雪のプラハに映像が移る頃に食事が終わると、「冬から春への映像はあとで見せていただきますね」と先見さんはDVDプレーヤーからディスクを引き出してケースに仕舞った。
 そして、「バックグラウンドミュージックにはどれがいいかな~」と言いながらCDを探し始めたので、「もしよろしかったらこれをかけていただけませんか?」と持参したCDを差し出した。
 すると、気を使わせて申し訳ない、というような表情になったが、タイトルを見て戸惑いの声が出た。
「セルジュ、デ……」
SERGE(セルジュ) DELAITE(デラート) TRIO(トリオ)です」
「デラートと読むんですね。それで、タイトルが『TIME AFTER TIME』ということは、何度も何度も、か……」と言いながら、時計が3個イラストされた表紙を食い入るように見つめた。
 そして、「ふ~ん」と声を発してからアルバムジャケットを裏返すと、「Sawano……。あっ、澤野工房だ」と驚きの声が出た。
 
 そう、わたしが持参したCDは大阪・新世界の通天閣近くにある老舗履物屋さんが立ち上げたジャズ・レーベルのものだった。取り扱うピアノトリオの質の高さに定評のある知る人ぞ知るレーベルで、その中でも特に気に入っているアルバムを持参したのだ。

< 40 / 111 >

この作品をシェア

pagetop