『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~  【新編集版】
牟礼内静華(先端発想大学教授)
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 先見邸から自宅に戻ってからも興奮状態が続いていた。
 先見さんのソニー愛に触れた影響はかなり大きかったようだ。
 社員でもないのにあんなに熱弁を振るう姿を目の当たりにして、ソニーが築き上げてきたブランド力や影響力の凄さを改めて実感した。
 だからか、ソニーと共にホンダが急成長し、日本中の若者の心を震わせていた頃のことが知りたくなった。
 しかし、物心ついた頃には2社共に大企業になっていたし、当然創業者は一線を退いていた。
 それに、残念ながら家にソニー製品はほとんどなかったし、車はホンダではなかった。
 2社についての話を両親から聞いた記憶もなかったので、どういう存在だったのだろうかと思いを巡らしていると、アップルとテスラが脳裏に浮かんだ。
 多分そんな感じかな、と思ったが、すぐに違和感を覚えた。
 国も時代背景も違う両社を結びつけることは無理があるような気がして、その考えを捨てた。
 しかし、ソニーとホンダの成長の源泉に対する興味は益々募っていったのでもっと深掘りしたくなった。
 もちろん異質学の研究者としてある程度の情報は持っているが、更なる情報収集が必要だと感じたのだ。
 国会図書館へ行って未知の資料を集めようか?
 そう思った瞬間、別のアイディアが湧いてきた。
 そうだ、教授に訊けばいいんだ。
 安易な考えかもしれなかったが、それ以上に確実で効率的なことは思い浮かばなかった。
 時間をかけて資料を当たるよりも異質研究の第一人者に訊くのが一番だと確信したからだ。
 善は急げ、と牟礼内教授に電話をすると、「いつでもどうぞ」と明るい声が返ってきて、「暇を持て余しているから」と続いたが、それが本当のこととは思えなかった。
 あの教授が無為に時間を潰すわけはないからだ。

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