『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~  【新編集版】
「コルマールって知ってる?」
 えっ? まだアルザスを探しているんですけど、と言うわけにもいかないので首を振ると、「リクヴィルは?」とまた新たな地名が飛び出してきた。
 これもまったく聞いたことがなかったのですぐに首を振ると、「では、ストラスブールは?」と更に追い打ちをかけられた。
 もうお手上げだった。
 大きく首を振るしかなかった。
 すると、「知らないか~」とガッカリしたような声が漏れたが、思い直したように表情を戻して、「ちょっと待っててね」と立ち上がって部屋を出て行った。
 
 すぐに戻ってきた教授の手には本があった。
 表紙に『アルザスワイン街道』と大きく書かれている。
 それをテーブルに置いた教授が表紙をめくると、折り畳まれた地図が見えた。
「ここがコルマール、ここがリクヴィル、そしてここがストラスブール」
 次々に指差す先に横文字の地名とワイン畑を示す色付けがあった。
 それで地名もワイン街道というのもわかったが、それがどの位置にあるのかわからなかった。
 するとその疑問が伝わったのか、ページをめくって新たな地図を広げた。
「アルザスはここよ」
 指差したところを見ると、フランスとドイツが接する地域が濃い緑で塗られていた。
ライン川を境にして西がフランスで東がドイツだったが、そこで教授の蘊蓄が始まった。

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