『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~  【新編集版】
「この辺りは戦争の度にドイツになったりフランスになったり大変だったのよ」

 紀元前1500年頃からフランスの古名(こめい)であるガリアが支配していたが、ローマ帝国やフランク王国の支配下に置かれたあと、14世紀に神聖ローマ帝国(ドイツ)の領土になった。
 その後、17世紀にプロテスタントとカトリックの対立をもとに勃発した30年戦争を経てフランスの領土に戻るが、ドイツ統一を目指すプロイセンとそれを阻もうとするフランスが戦った普仏(ふふつ)戦争でフランスが破れると、またドイツの領土となる。
 その後、第一次世界大戦で勝利した連合国軍側のフランスはヴェルサイユ条約により取り戻すことになるが、第二次世界大戦中は再度ドイツのものとなる。
 しかし、ドイツの敗戦によってまたフランスに戻ることになり、今の形になった。
 そんな数奇な変遷を聞いて、この地方の人たちが途方に暮れた様が思い浮かんできた。
 フランス語→ドイツ語→フランス語→ドイツ語ということを何度も繰り返してきたのだ。
 両大国に(もてあそ)ばれたアルザス人の苦労はいかばかりかと思うとやりきれないような気持ちになったし、彼らの悲鳴が聞こえてきたような気がした。

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