『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~  【新編集版】
「この辺りでは石炭と鉄鉱石が豊富に産出されていたから奪い合いになったのよ」
 理由を聞いて納得した。
 戦略物資を巡って争いが起きるのはどの時代も同じなのだ。
「でもこれからはずっとフランス領のままだと思うけどね」
 それを聞いてなんだかホッとした。
 と同時に、そんな経験をしていない日本の幸運を有難いと思った。
 朝鮮になったり、中国になったり、日本に戻ったりしたら、今とはまったく別の国になっていたはずだからだ。
 天皇制が途切れていたかもしれないし、日本語も廃れていたかもしれない。
 貴重な日本建築や美術品も失われていただろう。
 島国で良かったと心から思った。
 それで肩の力が抜けたのか思わず息を漏らしてしまうと、「歴史はこのくらいにしてワインを楽しみましょう」と教授がグラスを掲げた。

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