『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~  【新編集版】
 その後はプチケーキと紅茶をお供に大学のことなどを話したが、夕方になったのでお暇することを伝えると、「散歩しながら三鷹駅まで歩かない?」と誘われた。
 玉川上水沿いの道が緑あふれて素晴らしいのだという。
 もちろん断る理由などなく、というより駅までご一緒できることにワクワクしながら玄関を出た。
 
 教授のあとを付くようにして右に曲がったり左に曲がったりしながらしばらく歩くと信号が見えた。
 そこには橋らしきものがあり、見下ろすと、小川が流れていた。
 ここが玉川上水なのだという。
 しかしそれがなんなのかよくわからなかった。
「こんなことを訊くのはちょっと恥ずかしいのですけど、玉川上水ってなんなのですか?」
 教授は、あら知らないの、というように目を大きく見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。
「上水って聞いたことない?」
 すぐに頷いた。脳の引き出しにその言葉はなかった。
「下水の反対なの」
 そう言われてわかったような気がした。
「溝とか管を通した飲料用の水のことなの」
 完全に理解できた。
「で、東京でそれができるきっかけを作ったのが徳川家康なの。彼は江戸に入るにあたって、家臣に水道、つまり水の道(・・・)を作るように命じたの。家臣は水源を探して歩き回ったそうなんだけど、小石川にあることを突き止めて、それを神田方面に流す道を造り上げたの。それが小石川上水というのだけど、江戸がどんどん発展していくと水が足りなくなって新たな水源が必要になったの。それで造られたのが井の頭池や善福寺(ぜんぷくじ)池の湧水(わきみず)を源泉とする神田上水なの。1629年頃のことだったと言われているわ」

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