『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~ 【新編集版】
上水の南側の小径を歩いていると、目の前に学校の門のようなものが現れた。
「法政の中学高等学校よ」
2007年に開校したのだという。
その前は東京女子大のキャンパスで、更にその前は東京神学大学だったという。
「いい環境で勉強できるから恵まれているわね」
チラッと門の中を覗き込むようにして横を通り過ぎると、こんもりと木々が茂る斜面が左側に見えてきて、そのまま歩みを進めていくと目の前に舗装された道路が現れた。
しかし教授が橋を渡って向かい側の道へ進んだので続いて橋を渡ったが、途中で上水を覗き込むと僅かしか水が流れていないように見えた。
渡り終えて左折して緑あふれる小径をしばらく歩くと道路が見えてきたが、その手前で教授が急に立ち止まり、南側に向かって手を合わせて頭を下げた。
「どうしたのですか?」
なんだかさっぱりわからなくて戸惑ったが、顔を上げた教授がこの場所のことを説明してくれた。
ここは文豪・太宰治が愛人と入水自殺した場所なのだという。
木々に隠れて一部しか見えないが、向かいには明星学園高校があるらしい。
「人間失格って読んだことある?」
わたしは首を振った。
太宰の本は1冊も読んだことがなかった。
「彼の自伝であり、遺書であり、凄惨な半生が書かれているわ。そのせいか、完成した1か月後に自殺したの」
それを聞いて一気に空気がどんよりとしたように感じたが、教授の話はなおも続いた。
「二度目の自殺だったの。一度目はバーの女給と心中を図ったんだけど、でも皮肉なことに女は死んで彼は死ねなかった。生き残ってしまったの。そんなことから自己破滅的な私小説を書くようになったのかもしれないわね」
わたしは覗き込むようにして上水を見たが、水量が多いとはとても思えなかった。
「こんなに少ない水で死ねるんでしょうか?」
不可解な気持ちのまま疑問をぶつけると、「そう思うわよね。でもその日は強い雨が降っていてかなりの水量だったらしいの。腰を赤い紐で結んだ2人の水死体は川底の棒杭に引っかかっていたそうよ」とリアルな返事が返ってきた。
それはあまり想像したい姿ではなかったので上水から目を逸らすと、「ごめんなさいね。ちょっと気持ちが沈んじゃったわね」と僅かに頭を下げた。
「法政の中学高等学校よ」
2007年に開校したのだという。
その前は東京女子大のキャンパスで、更にその前は東京神学大学だったという。
「いい環境で勉強できるから恵まれているわね」
チラッと門の中を覗き込むようにして横を通り過ぎると、こんもりと木々が茂る斜面が左側に見えてきて、そのまま歩みを進めていくと目の前に舗装された道路が現れた。
しかし教授が橋を渡って向かい側の道へ進んだので続いて橋を渡ったが、途中で上水を覗き込むと僅かしか水が流れていないように見えた。
渡り終えて左折して緑あふれる小径をしばらく歩くと道路が見えてきたが、その手前で教授が急に立ち止まり、南側に向かって手を合わせて頭を下げた。
「どうしたのですか?」
なんだかさっぱりわからなくて戸惑ったが、顔を上げた教授がこの場所のことを説明してくれた。
ここは文豪・太宰治が愛人と入水自殺した場所なのだという。
木々に隠れて一部しか見えないが、向かいには明星学園高校があるらしい。
「人間失格って読んだことある?」
わたしは首を振った。
太宰の本は1冊も読んだことがなかった。
「彼の自伝であり、遺書であり、凄惨な半生が書かれているわ。そのせいか、完成した1か月後に自殺したの」
それを聞いて一気に空気がどんよりとしたように感じたが、教授の話はなおも続いた。
「二度目の自殺だったの。一度目はバーの女給と心中を図ったんだけど、でも皮肉なことに女は死んで彼は死ねなかった。生き残ってしまったの。そんなことから自己破滅的な私小説を書くようになったのかもしれないわね」
わたしは覗き込むようにして上水を見たが、水量が多いとはとても思えなかった。
「こんなに少ない水で死ねるんでしょうか?」
不可解な気持ちのまま疑問をぶつけると、「そう思うわよね。でもその日は強い雨が降っていてかなりの水量だったらしいの。腰を赤い紐で結んだ2人の水死体は川底の棒杭に引っかかっていたそうよ」とリアルな返事が返ってきた。
それはあまり想像したい姿ではなかったので上水から目を逸らすと、「ごめんなさいね。ちょっと気持ちが沈んじゃったわね」と僅かに頭を下げた。