『准教授・駿河台ひばり』 ~変人・奇人の時代~ 【新編集版】
母が包装紙を丁寧に剥がすと、白地のカートンが現れた。
そこには、芋麹本格芋焼酎と石蔵甕貯蔵という文字を従えた一刻者という文字が大きく主張していた。
「おっ、一刻者の甕か」
珍しく目尻が下がった。
父はこの芋焼酎に目がないのだ。
「かあさん、グラスと氷を頼む」
立ち上がろうともせず当然のように指図をした。
「はいはい」
嫌がるふうでもなく台所へ向かったので、すぐに追いかけて文句を言った。
「自分でやらせればいいのに」
なんでも受け入れる母にチクリと釘を刺したが、ちょっと肩をすくめただけでそれ以上の反応は示さなかった。
「でも、おかしいわよね。一刻者が一刻者を飲むんだから」
母は少し目元を緩めたが、正にその通りだった。
一刻者とは〈頑固で自分を曲げない〉という意味なので、父にピッタリなのだ。
実は還暦祝いにセーターとこの焼酎の限定品をプレゼントした時から気に入ってよく飲んでいるらしく、もちろん普段はスーパーで売っているガラスボトルのものを飲んでいるのだが、すっきりとした中にも甘い香りが立つので気に入っているのだという。
だから今日も一刻者を選んだのだが、それでもたまに帰る時くらいはもっといいものをと思っていたこともあって、「本当は百年の孤独とか魔王とか森伊蔵とかを持ってきたかったのだけど、わたしの給料ではちょっと手が出なくて……」と何故か言い訳をしてしまったが、「もったいない、もったいない、酔ったら味なんてわからなくなるんだからそんな高価なものは必要ないのよ」とサラッとかわされてしまった。
「まあ、そうだけど……」
相槌を打ったもののそのあとが続かなかったが、「これお願い」とトレイに乗せたグラス3個とガラス製のアイスペールとトングとマドラーを渡されて、「おつまみを持って行くから先に飲んでて」と背中を押された。
そこには、芋麹本格芋焼酎と石蔵甕貯蔵という文字を従えた一刻者という文字が大きく主張していた。
「おっ、一刻者の甕か」
珍しく目尻が下がった。
父はこの芋焼酎に目がないのだ。
「かあさん、グラスと氷を頼む」
立ち上がろうともせず当然のように指図をした。
「はいはい」
嫌がるふうでもなく台所へ向かったので、すぐに追いかけて文句を言った。
「自分でやらせればいいのに」
なんでも受け入れる母にチクリと釘を刺したが、ちょっと肩をすくめただけでそれ以上の反応は示さなかった。
「でも、おかしいわよね。一刻者が一刻者を飲むんだから」
母は少し目元を緩めたが、正にその通りだった。
一刻者とは〈頑固で自分を曲げない〉という意味なので、父にピッタリなのだ。
実は還暦祝いにセーターとこの焼酎の限定品をプレゼントした時から気に入ってよく飲んでいるらしく、もちろん普段はスーパーで売っているガラスボトルのものを飲んでいるのだが、すっきりとした中にも甘い香りが立つので気に入っているのだという。
だから今日も一刻者を選んだのだが、それでもたまに帰る時くらいはもっといいものをと思っていたこともあって、「本当は百年の孤独とか魔王とか森伊蔵とかを持ってきたかったのだけど、わたしの給料ではちょっと手が出なくて……」と何故か言い訳をしてしまったが、「もったいない、もったいない、酔ったら味なんてわからなくなるんだからそんな高価なものは必要ないのよ」とサラッとかわされてしまった。
「まあ、そうだけど……」
相槌を打ったもののそのあとが続かなかったが、「これお願い」とトレイに乗せたグラス3個とガラス製のアイスペールとトングとマドラーを渡されて、「おつまみを持って行くから先に飲んでて」と背中を押された。