背中
目の前に広がる下り坂は、綺麗だった。

陳腐な表現になるが、とても綺麗だった。


目を開くと、夏の暑さの中力強く生い茂る緑の樹木が見える。

耳を澄ますと、懸命に生きる蝉の声が、北国の短い夏を彩っている。


「もうすぐ、夏なんだ。」


この一年半、そんなことにすら気がつかなかった。

サトミは、今まで歩いたことのないような坂道を下った。


なんか、足がふわふわする。

沸き立つような高揚感につつまれながら、サトミは歩いた。


そしてその途中、その人はいた。


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