背中
捕手は投手の前に立つと、ゆっくりと腕を組んで、小さく首を左に曲げて口を開いた。


「なあ、どうした。」

その口調は穏やかだった。


「すまん、思うところにボールがいかなくて・・・。最後の試合が近いのに・・・。」

投手はうなだれたようにうつむいたままで、高ぶる気持ちを抑えるように強い口調でそう言う。


辺りは風もなく夏の熱気に包まれいて、彼らの声はサトミにもはっきりと聞き取ることができた。


遠くで、蝉の声が聞こえる。



捕手は小さく溜息をついた。

「ひとりで全てを背負い込んで頑張ると、つらんじゃないかな。」


その言葉に、サトミの目の前の白黒の光景が、一斉に色づき始めた。
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