背中
「だめよ。あのピッチャー、付き合っている人がいるもの。ほら。」

キリコはそう言って、小さく隣を指差した。


サトミはぼうっとした目で、その先をたどる。


「ケンジくーん、ナイスボール!」

サトミたちから数メートル離れたところに座る二人の少女のうち、一人が大声でそう投手に声援を送った。


(すごい・・・。)

サトミは自分はこんなふうに、一途に、まっすぐに、想いを伝えることなんて、絶対に出来ないと思った。

うらやましいと思った。


「違うの。」

サトミはぽつりと言った。


その返事に、キリコは少し考え込んだ。

そして、ふと気がついた。


「キャッチャーの人?」

キリコがひらめいたようにそう言うと、サトミは恥ずかしそうに小さく頷いた。


グランドの周りの緑が、風に揺られてざわざわっと音を立てた。
< 21 / 98 >

この作品をシェア

pagetop