背中
「弟は、私の影響で野球を始めました。」

兄が吐き出した唐突なその言葉に、サトミは何も答えられなかった。


「2つ年上で投手をしていた私の球を受けたいと、小学校・中学校・高校と、追いかけてくるように野球部に入ってきたんです。」

兄はまっすぐに前を見据えたままそう言うと、グッと唇をかみ締めた。


「それを止めればよかったんです。」

苦しそうに顔をゆがめてそう言う横顔を、サトミはじっと見つめた。


処置室の前の廊下は、お腹が痛くなるような静寂に満たされている。
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