背中
その時。


ブルルル。

会社に入る時に、仕事に使うだろうと母が買ってくれた携帯電話が震えた。


閉じた背中に現れた相手の名前に、土門の頬は思わず緩んだ。


「もしもし。」

「どうした、尾上。」

土門はさりげなさを装ってそう尋ねた。


「卒業式のときの写真、出来上がったんだ。あしたの日曜日、体空くか?」

暇か?とは聞かない尾上の優しさに、土門は感謝した。


「おう、空く。」

「じゃあ、駅前のあの店で朝10時。」

尾上はどの店かは伝えずにそう言うと、電話を切った。


土門はしばらくじっと電話機を見ていたが、しばらくして小さく頷くと茶碗をもって炊飯器のふたを開けた。
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