手のひらの魔法

麻酔科の待合室の方へ行くと、わたしに気付いた看護士さんが近寄ってきた。

「森崎花澄さんですか?」
「はい。」
「こちらにどうぞ。」

待ち時間もなく、わたしは看護士さんに5番の診察室に案内された。

看護士さんは5番診察室の扉を横に引くと、中に向かって「栗原先生、森崎さんいらっしゃいました。」と言った。

そして、中に入るよう促され、わたしは「失礼します。」と中に入ったのだ。

栗原先生は、いつもこちらに見向きもせずパソコンに向かっているはずなのだが、今日はこちらを向いて前で手を組み、椅子に座っていた。

「どうぞ。」

椅子に座るよう促されたわたしは、椅子に腰を掛けた。

栗原先生と二人、診察室内は静かだった。
いつもと違う対応と先生の雰囲気に不安になるわたし。

すると、栗原先生が口を開いた。

「うちの娘に、酷い仕打ちをしてくれたようだね。」
「えっ、、、?」
「うちの娘に嫌がらせをしたんだって?それを知った以上、僕が森崎さんを診ることは出来ないんだよ。」

無表情で淡々と栗原先生は言った。

わたしは、栗原先生の言っていることが全く理解することが出来なかった。

栗原先生の娘?
わたしが嫌がらせをした?

「あのぉ、栗原先生の娘さんっていうのは、、、?」

わたしがそう言うと、栗原先生は「知らないとは言わせないよ?うちの娘、栗原茜だよ。」と言ったのだ。

わたしはその名前を聞き、息が詰まりそうになった。

< 27 / 33 >

この作品をシェア

pagetop