手のひらの魔法
そして、わたしたちは茜さんに住所を特定されている為、引っ越しと共に同棲しようということになった。
引っ越し先は、お互いの職場の中間で5階建てのマンション。
もちろん、ウサギのぬいぐるみも一緒に引っ越しだ。
家電はわたしが使っていたものをそのまま使い、2人用の食卓テーブルと2人掛けソファーを買い足した。
それから、ベッドなのだが、お互いのシングルベッドは廃棄し、新しくダブルベッドを購入した。
幼馴染ではあるが、一緒に並んで寝たことがない為、最初は少し恥ずかしかった。
わたしが寝返りをうち、響希に背を向けるように寝ると、響希は必ず後ろから抱き締めるように眠る。
それが嬉しくて、わざと寝返りをうつ自分がいた。
季節も秋になり、11月中旬。
厚手のカーディガンを羽織り、響希と共に並んで大通公園を歩いていた。
「今日、風冷たいね。」
わたしがそう言い、手をカーディガンの袖に隠そうとすると、わたしの右を歩く響希が、わたしの右手を握り、自分のジャケットのポケットに手を入れたのだ。
わたしは「ちょ、ちょっと、汗かいちゃうよ!」と焦ったが、不思議なことに響希と手を繋いでも手汗をかかなかった。
あれ?大丈夫だ。と驚く自分。
そして、響希の手は温かかった。
もしかしたら、響希の手は、魔法の手なのかもしれない。
わたしはそう思った。