契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
波乱の始まり
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秋の気配が濃くなり始めたころ、幼い男の子が救急車で青葉大学病院に運ばれてきた。
「軽い風邪かと思っていたんです。でも、夜になってぐんぐん熱があがって」
熱が高いし、息が苦しそうだからと若い母親が救急車を呼んだらしい。
搬送されてきたとき、母親は息子が重い病気ではないかと少しパニック気味だった。
「先生、大丈夫でしょうか。この子はわが家にとって大事な子なんです」
拓翔も丁寧に対応するが、母親は詰め寄ってくる。
「検査結果が出るまで、しばらくお待ちください」
看護師がなだめても母親は黙っていられないようで、布団が重いとか氷枕をしろとかあれこれと口を出す。
拓翔が診察してみたら、男の子の肺に炎症があることがわかった。
ほかにも気になることがあったので、小児科病棟に入院するように手配する。
「入院⁉ そんなに悪いんですか」
「熱が下ってから、肺の炎症を詳しく調べてみましょう」
安静にして、詳しく肺の検査したいと話したら母親は泣きだしてしまった。
子どもの病気のせいだけでなく、かなり精神状態が不安定なようだ。
軽い育児ノイローゼかと思ったが、男の子の症状を落ち着かせる方が先だ。
その子の名は「太田進太郎」という。
特に珍しい苗字ではないし、拓翔は気にもしていなかった。