契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
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朝の申し送りで、未明に入院してきた男の子の話題が出た。
香耶も、拓翔が担当していると知って気になっていた。
まるで外国映画に出てくるような、日本人離れした目鼻立ちの子だという。
ただ母親が情緒不安定なので、対応が難しいと夜勤の看護師たちが言っていた。
(太田進太郎)
二歳になる男の子だ。
進太郎の病室は、ナースステーションに近い個室だった。
太田という名にチクリと胸が痛んだが、その時の香耶はまさか自分に火の粉が降りかかってくるとは思ってもいなかった。
日勤だった香耶は、佐原とペアで朝の巡回のためにカートを押して病室を回る。
「おはようございます。お変わりありませんか」
まず体調が心配される進太郎の病室からだ。
軽くノックしてから入ると、まだ熱があるのか赤い顔をしているのが見えた。
か細い腕に、点滴が繋がっているのが痛々しい。
ベッド脇に座ったまま入口に背を向けていた母親が、看護師がきたとわかったのかパッと振り向いた。
「さっきからなんども言ってるでしょ。まだ熱が下らないの。早くドクターを呼んでちょうだい」
イライラとした口調だ。