契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話


「なんとか言いなさいよ。あなた、私のこと笑ってるの」

「いえ、そんな」

「主人は今、ドイツ出張なの。おあいにくさま」

洸太郎には会いたくもないから、海外出張中と聞いてホッとする。

「出てってよ」

大きな声に、進太郎が怯えたのか泣き始めた。

「落ち着いてください、太田さん」

香耶がなにを言っても、沙織は聞く耳を持たないようだ。

「あなたの顔なんて見たくもないわ」

あまり騒がれてもホワイトコールになってしまうからか、主任がなんとかなだめようとしている。

「わかりました、すぐに対応します。落ちつきましょう、太田さん」

「なによ。私はこの女が嫌だって言ってるだけでしょ」

沙織はかなり混乱しているように見える。
このままではいけないと判断した主任が、視線で香耶を下がるように合図してきた。
香耶もそれに従うしかない。

「担当は変えましたから、大丈夫ですよ」

香耶が病室を出て行くのを、心配そうに佐原が見ている。

沙織は黙り込んでイスに座り込むと、肩でハアハアと荒い息を繰り返していた。
佐原は進太朗の体温や脈を計ったが、沙織は子どもの方を見ようともしない。
そのこわばった表情から、母親らしさは感じられなかった。



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