契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
その日、香耶は拓翔に今日の出来事を正直に話した。
夫である拓翔に、しばらく仕事を休む理由を伝えなくてはと思ったのだ。
当然、拓翔にだってどうすることもできない。
それに自分が担当している男の子が、香耶の元夫の子だったと知って驚いている。
幼い進太郎には罪はないし、むしろ先天的な病気を拓翔は疑っていた。
「香耶、きちんと診断がつくまで長くはかからない。その間、耐えられるか」
「もちろんよ。私は大丈夫。ただ、病院であなたが私の悪いうわさを耳にするのがつらいの」
「うわさなんて、どうでもいいさ」
落ち込んだ香耶を慰めるように、拓翔は優しく抱きしめてくれる。
「あの子の病状をはっきりさせて、母親に伝えるよ。それから青葉大学病院で治療するか、転院するか選んでもらうから」
「わかりました」
ふたりはベッドに寄り添って横たわったまま、静かに言葉を交わしている。
「拓翔さん」
「ん」
「抱いて」
香耶の方から求めるのは初めてだ。拓翔が息を飲むのがわかった。
「香耶」
「辛いのか、寂しいのかわからないけど、今夜はものすごく心細いの」
沙織に会ったことで、香耶の心に過去の記憶がよみがえっていた。
忘れたと思っていたのに、あの離れにひとり取り残されたような不安を感じるのだ。