契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
「いいのか」
コクリと香耶はうなずいた。
「ひとりじゃないって、あなたのそばで生きてるんだって、実感させて」
拓翔はそっと香耶の肩から背にかけてをなぞる。
「あなたに抱いて欲しいの」
香耶は過去に引きずり込まれそうのなって、拓翔に助けを求めてしまった。
抱かれて、愛されて、幸せを実感したい。
拓翔もその想いにに答えるように、いつも以上に激しく香耶を翻弄した。
いつしか香耶は気を失うように、深い眠りについていた。
***
香耶のもとに病棟から連絡が入ったのは五日後で、思ったよりも早く仕事に戻れることになった。
佐原からもすぐに電話があったので、その事情がわかった。
太田沙織のひどい態度や言葉に、小児科病棟の看護師たちも不信感を抱いているという。
真面目に勤めていた香耶への信頼の方が勝ったのだろう。
香耶が出勤する日は、拓翔が太田進太郎の検査結果を母親に伝える日でもあった。
病棟の面談室は、廊下を挟んでナースステーションの向い側にある。
朝の申し送りのあと、香耶がナースステーションで点滴薬剤などの確認をしていたら面談室が騒がしくなった。
居合わせた看護師たちも気になるのか、そちらに視線が向いている。
「今、面談してるの誰かな」
「ほら、森谷先生の」
「ああ、例の、あのお母さんね」
言葉を選びながらも、意味ありげに話しているのが香耶にも聞こえてくる。
「海外出張から帰国したお父さんも一緒のはずよ」
「検査結果をお伝えするだけなのに、どうして騒ぎになるのかな」
少しスライドドアが開いて、中の声がもれてきた。
「血液型が違うじゃないか」
なんだか雲行きが怪しい言葉だった。
続いて、大きく叫ぶような声も聞こえてきた。
「誰の子だっ」