契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
面談室の中には憮然とした表情の拓翔と、こわばった顔をしている看護師長の姿が見えた。
ふたりとも無言だが、ナースたちの注目を集めているとわかったのか椅子から立ち上がった。
拓翔たちの動きに洸太郎がつられたようで、視線の先にはナースステーションがあると気がついたようだ。
そこに数人の看護師がいたので、聞かれていたと思って焦っている。
しかも、香耶にピタリと視線をあわせた。
「かや……」
洸太郎の前に、拓翔がすっと視線を遮るように立ちふさがった。
「今日はお話ができませんね。また日を改めましょう」
「どいてくれ」
拓翔が邪魔だと言わんばかりに、洸太郎が体を避けようとする。
その間に、香耶はサッと奥の処置室に身を隠した。
「また都合にいい日をご連絡ください。早ければ早い方が、お子さんのためですから」
香耶が見えるところにいないのを確認して、拓翔もその場から去った。
「さ、仕事ですよ」
看護師長のひと言で、看護師たちは目を伏せてそれぞれの仕事に戻った。
ひと目を気にしたのか洸太郎はなにも言わずに帰って行ったが、沙織は床に座り込んだままだった。
見かねた看護師長が支えて、やっと息子の病室へ戻った。