契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
「よかったら、お茶でもする?」
「ありがとう。佐原君に話したいこともあったの」
佐原には、まず一番に拓翔とのことを知らせたかった。
彼の言葉がきっかけで、気持ちを打ち明ける勇気が持てたのだ。
どこに行こうかとふたり並んで通用口を出ると、そこに太田洸太郎の姿があった。
「香耶」
いきなり話しかけられても、返事すらしたくない。
「待っていたんだ」
洸太郎が一歩ずつ近づいてくる。
じっと香耶を見据えているのが恐ろしくすら感じる。
「なんのご用でしょうか」
かろうじて香耶が言うと、ニヤリと洸太郎が笑った。
「つれないなあ」
「もうずいぶん前に、あなたとはお別れしています」
香耶の緊張感が普通ではないと思ったのか、佐原がかばうように前に出てくれた。
「失礼ですが、太田さんでいらっしゃいますね。なにかご用でしょうか」
問いには答えず、洸太郎は佐原を無視すると決めたようだ。
「祖母が君に会いたがっているんだ」
「恵子さんが?」
「どうやら、もう長くない」
「えっ」
「最期にひと目だけでも会ってやってくれないか」
洸太郎が手で合図したら、通用口の前に黒塗りの高級車がスルスルとすべり込んできて止まった。