契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
「素敵な提案ね。あなたと一日中ベッドで過ごせるなんて」
「決まりだな」
拓翔はそう言うと同時に、グッと香耶を抱き寄せた。
素肌が触れ合うと、香耶はため息をもらした。
「夢みたい」
ずっとこんな暮らしを夢見ていたと香耶は言う。
「ベッドから出ないことかな」
おどけたように拓翔が言うが、香耶は夢のひとつひとつを数えだす。
「なんの契約もなく結婚すること。大好きな人と、のびのびと暮らすこと。思いっきり笑うこと。それから……」
言葉より早く、香耶の唇を荒っぽく拓翔は塞いだ。
拓翔がどれだけ香耶を愛しているのか、この方が香耶には伝わるかもしれない。
元夫の強引な行動は再び香耶を傷つけたが、今は拓翔がそばで支えている。
太田家や古泉家とは、弁護士を通して香耶とは二度と関わらない約束を交わした。
これからも香耶を守るためなら、拓翔はどんな手でも使うだろう。
思いがけない出会いから始まって、誤解や戸惑いを乗り越えてここまできたふたり。
別荘の庭では蝉たちがこれでもかというくらい鳴いているが、もはやふたりの耳には届いていなかった。