契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話



東と南には大きな窓があるから、冬なのに暖かく感じるのは日当たりがいいからだろう。
おまけに眺望がすばらしく、江戸時代の大名庭園が眼下に広がり東京湾まで見渡せる。

(こんな立派なマンションだなんて)

香耶の驚きが伝わったのか、佐和がポンと肩を叩いた。

「なにも気にせず、わが家だと思ってね」
「は、はい」

佐和は少し疲れたのか、窓際のゆったりとしたソファーに腰を掛けた。
香耶は茶を淹れようとキッチンに向かった。

リビングダイニングの奥にあるキッチンは、対面型のペニンシュラタイプだ。
カウンターは広めで、ここに座って食事ができるようになっている。
本来は家族とのコミュニケーションが取りやすいデザインなのに、無機質な感じがするのはどうしてだろう。

(食器や調理道具が少ないからだわ)

よく見たら、食器棚も冷蔵庫内もがらんとしている。
ひとり暮らしではあまり使うことがないのかもしれない。

医師として忙しい拓翔は、ここでどんな生活をしているのだろうと少しばかり気になった。




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