契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話



「はやく家庭を持って落ち着いて欲しいのだけど、一度失敗しちゃって」

拓翔のプライベートな話になってしまった。

「佐和様、そのようなお話は」

香耶はやんわりと止める。

「ここだけの話よ」

誰かに聞いてほしかったのか、話は続いた。

「前に婚約してた子は、拓翔が大学病院で働くことに反対だったらしいの」

香耶から見れば当たり前のことだと思ったが、なにが気に入らなかったのだろう。

「すぐにでも拓翔が森谷総合病院を継ぐものだと思っていたんですって」
「そうですか」

話を聞かされて困ったなと思いつつ、香耶は相づちを打つしかできない。
ただ「早くいいご縁があるといいのに」という佐和の言葉には、孫への愛情が感じられた。

「女性から見たら、あんな子でも優良物件なのかしらねえ」

もちろんですと言うのもおかしい気がして、香耶はあいまいに微笑んだ。

お茶と雑談を楽しんで落ち着いたのか、佐和は行きつけのデパートの外商に連絡を入れた。
すぐに担当者が佐和が愛用している寝具や着替えを届けに来た。
二時間しない間に生活に必要なものが揃ったのだから、さすが池辺家としか思えない。




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