契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
外商が帰ってから、香耶は日用品や食品の買い物に出かけることにした。
ここに住むにあたって、拓翔とは基本的な取り決めはしている。
掃除は外部から業者が来るから任せること。
洗濯は別、お互いの生活に干渉しないこと。
そうなると食費程度しか必要ないから、現金で十分だ。
もう大きな買い物はないからと、香耶はブラックカードを佐和に返した。
冷蔵庫はからっぽだから、まず食材を揃えなくてはいけない。
軽井沢の別荘では通いの家政婦が料理をしてくれていた。
だがマンションにいる間は、香耶の作る家庭料理がいいと佐和が希望したのだ。
近くを歩いてみたらスーパーマーケットやドラッグストアもあって、しばらくここで生活するのに不自由はなさそうだ。
佐和が食べたがった献立は、香耶でも作れそうなものばかりだった。
鮭の切り身を焼いたり、きんぴらごぼうやほうれん草のお浸しといった素朴なメニューだ。
慣れないキッチンで失敗しないように丁寧に作ったら、佐和はとても喜んでくれた。
「料亭やレストランの食事は時々だからいいの」といって、香耶の手料理をほめてくれる。
目の前で美味しいと言いいながら食べてもらえるのは、作った側にすれば嬉しいものだ。