契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話



思ったより広く、グリーンと白を基調にしたすっきりとした部屋だった。
しゃれた作り付けのベッドと机も準備されたいる。

(もしかしたら、将来は子ども部屋にするつもりだったのかも)

半分は冗談かと思っていたが、佐和が話していた結婚のために買ったマンションだというのは本当だったのかもしれない。
どんな気持ちで拓翔はここを準備したのかと、少しばかり気になった。
今でも住んでいるということは、別れた婚約者のことが忘れられないのだろうか。
佐和は相手のことをよく言っていなかったが、拓翔は彼女のことが好きで、別れたことを後悔しているのかもしれない。

他人のプライベートに踏み込むつもりはないが、拓翔は雇い主である佐和の孫だし、この部屋の持ち主でもある。
言葉ひとつで傷つくこともあるから、心の中の一番柔らかいところには触れられたくないだろう。
香耶も自分の辛い経験をあれこれ詮索されたくないので、この話題を避ける拓翔の気持ちもわかるような気がする。

すぐには眠れそうになかったが、香耶はベッドに横になる。
ベッドサイドの操作で部屋の明かりを消すと、天井にうっすらと光る星空が現れた。
蓄光タイプの壁紙が使われているらしい。

(かわいい)

夜空に見守られて眠りにつけるなんて、子どもなら大喜びしそうだ。

うらやましいような気持ちと同時に、ツキンと香耶の胸の奥が痛んだ。
いまだに結婚や子どもという言葉は、過ぎ去った日々を思い出させるのだ。





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