契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
忘れたい過去


***



香耶はあえて地味な服ばかりを身につけているが、まだ二十六歳だ。

香耶の実家は、漢方薬を専門にしている古泉製薬を経営していた。
それほど大きな会社ではないが、比較的裕福な家庭に育ったといえるだろう。

香耶が中学生の時に母が病気で亡くなってから、徐々に香耶の人生の歯車がずれ始めた。

すぐに父は「家には女手が必要だ」と言って再婚したが、継母となった人は香耶のふたつ年下の女の子を連れてきた。
その女の子は父の血を引いているという。つまり母が生きているときから父は浮気をしていたのだ。

潔癖な年頃だった香耶には大きなショックだった。
それでも父が幸せなのならと、義母と義妹の麻友(まゆ)を受け入れた。

ひとつ屋根の下で暮らし始めてわかったことは、ふたりはとても華やかで、賑やかなことが大好きだということだ。
亡くなった母は控えめで物静かな人だったから、戸惑うことも多かった。
造花を入れた花瓶や、華美な額縁で飾られた油絵などがごちゃごちゃと置かれたた室内、いつも大きな音で聞こえてくる流行りの音楽。
父は留守がちだし家のことは義母に任せきりだから、屋敷の中がこんな状況だとは知らないのだろう。


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