契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
なんとか新しい環境に慣れようと努力したが、義母や麻友とは話題も好みも違う。
無視されたりいじめられたりするわけではないが、異質なもの同士がうまくいくはずがない。
どちらからともなく避けるようになり、必要以外のことは会話しなくなった。
次第に居場所はなくなって、父が帰宅しても香耶には声がかからなくなった。
通いの家政婦はベテランから若い人に変わり、ますます屋敷の雰囲気は変わっていく。
香耶は青葉大学医学部の看護学科に進んだ。
父は香耶には関心がないのか進路についてなにも言わなかったし、進学と同時に家を出ると言っても反対されなかった。
学費と最低限の生活費はありがたく受け取ることにしたが、香耶は古泉の家族から離れる決心をしていた。
ところが、人生は思うようにはいかない。
国家試験に合格して青葉大学病院への就職先が決まったのと同じ頃、父が騙されて借金を背負ってしまったのだ。
『いい薬草が安く手に入る』という悪徳商社の話に乗ってしまったらしい。
古泉製薬はそれほど資金が豊かなわけではないから、すぐに経営に行き詰まってしまった。