契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話



ところがふたを開けてみれば、太田家から正式に結婚の申し込みがあったのは香耶のほうだった。
これまで仲がいいとはいえないが、義理の姉妹として波風を立てずに過ごしてきた麻友との関係がいっきに崩れた。

「お義姉さん、いったいどんな手を使ったの」
「私はなにもしていないわ」

「なにもしなくて、お義姉さんが選ばれるわけないじゃない」

「向こうが香耶がいいと言うんだからどうしようもない。麻友、あきらめなさい。もっといい縁談を探してあげるよ」

なにもしていないし、なにも言っていないのに、どうしてこうなったのか香耶にはわからない。

「お義姉さんって、おとなしそうな顔してズルい人ね」

麻友から告げられたひと言は、香耶の胸をえぐった。
父が再婚してわが家に居場所がなくなっても、誰にも愚痴を言わなかった。
看護師を目指してひたすら勉強してきた。

そんな香耶を一番理解してくれるはずの家族が、最も(おとし)めるのだ。

香耶がなにも言わなくても、結婚式の準備は進められていく。
相手の洸太郎は仕事が忙しいらしく、式までには二度ほど顔を合わせただけだった。
それすら香耶は文句ひとつ言わなかった。いや、反発する気力すらわかなかったのだ。











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