契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
洸太郎は、切れ長の涼やかな目をしていた。
身長も高いし、家柄もいい。勤め先でもエリートのようで、まさに麻友が好みそうなタイプだ。
家族の顔合わせの時には如才ない態度だったが、香耶とふたりになると「会社を助けてやる」という侮りの視線を感じた。
家同士の契約で決まった結婚だから、きっと乗り気ではないのだろう。
一番文句を言いそうな義母は、なぜか結婚に前向きだった。
気持ちのやり場のないまま、香耶は結婚式の日を迎えた。
由緒あるホテルでの式と、仕事関係者が多数招待された豪華な披露宴。
ただし、ハネムーンは洸太郎の仕事が落ち着いてからという約束になっている。
「いつか香耶さんの好きな場所へ行きましょう」と洸太郎は口では言ってくれたが、なんとなく香耶はそんな日はこないような予感がしていた。
義母が選んだウエディングドレス、義母が決めたカクテルドレス。
「まあ、孫にも衣裳ってこのことね」
義母の声には棘があった。支度してくれたホテルの美容師たちが顔色を変えたくらいだ。
「お似合いですよ」
「お綺麗です」
義母に聞こえないようにこっそりと褒めてくれたが、香耶は「ありがとう」と答えるだけだ。
どれほど美しい衣装に身を包んでも、香耶は心からの笑顔にはなれなかった。
(これは会社のための結婚、家のための結婚なんだ)
そう思いながら、香耶は一日中笑顔を貼りつけていた。
あと数時間で自分の人生が歪められるとは知らず、微笑み続けたのだった。