契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
感動のない結婚式と披露宴を終えてから、香耶は洸太郎に連れられて初めて太田家を訪れた。
見合いしてから結婚式までの間、一度も招かれたことがなかったし、自分から訪ねようと思ったこともなかったからだ。
古泉の義母から、新生活は世田谷にある太田邸で二世帯同居になると聞かされていた。
生活に必要なすべてのものは太田家で準備すると言われたから、身の回りのものを送ったくらいの簡単な花嫁支度だった。
香耶は新妻とは思えないくらい、バッグひとつという身軽さだ。
太田家は格式ある冠木門が設けられていて、広大な敷地に建つ純和風の落ち着いた屋敷だった。
一歩中に入るのに、とても緊張したの今でも覚えている。
母屋ではなく、離れに向かって洸太郎は歩いていく。
離れは母屋とは日本庭園を挟んで独立している建物で、あまり大きくはないが比較的新しい木の匂いがした。
新婚だから両親とは別がいいと気遣われたのかと思ったが、なにかおかしい。
平屋だがゆったりした造りだった。
玄関からまっすぐに廊下が伸びていて、入ってすぐに応接セットが置かれた和室。
その反対側は洋風のダイニングキッチンがあった。
ちぐはぐなデザインだし、なんだか洸太郎の趣味とは違う気がした。