契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話



***



真夜中と思われる時間に、香耶はハッと目が覚めた。
額に手をあてると、冬だというのに汗ばんでいた。それくらい嫌な夢だった。

(もうあの人たちと会うことはないはず)

忘れたいのに忘れられない、洸太郎の不快な目つきが蘇ってくる。

今は太田家や古泉家とは関係ない場所にいるのだ。
ベイエリアにあるマンションに閉じこもっていれば、すれ違うことすらないだろう。
そう自分に言い聞かせてみても、心がざわつく。

香耶は離婚してから実家や太田家に居場所を知られたくなくて、ずっと目立たないように暮らしてきた。
二度と自分の人生に関わられたくなくし、会いたくもない。
わざわざ地味な服を選び、化粧も薄くして存在を消してきた。

それでも洸太郎の絡みつくような視線が記憶の片すみにこびりついて、なかなか消えてくれないのだ。
久しぶりに東京に来たせいか、過去の夢を見てしまったようだ。

気持ちが高ぶってしまったのか、それからはどうやっても眠れなかった。




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