契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
年末年始の寝る時間もないような慌しさが過ぎ、ようやく世間では正月気分が抜けた一月中旬。
この日も拓翔は、朝から一度も座ることなく動き回っていた。
「救急車が到着しました」
「ラインとって、採血して」
ひとり受け入れたら、また次のコールが鳴る。
「救急受入要請です」
配属されている医師や看護師がフル回転しても、ベッドが次々に埋まっていって追いつかない日もあるくらいだ。
「状態は?」
「交通事故で、重傷者二名、一名は意識がありません」
「了解」
運び込まれる患者たちをなんとか救おうと、スタッフ全員が一丸となって対応している。
夕方になって少し落ち着いてきたので、昼食を食べそびれていた拓翔は空腹を満たそうと医局で休んでいた。
院内のコンビニで買ったおいたおにぎりを、ペットボトルの緑茶で流し込む。
カルテの整理が残っているから、のんびりと休んでもいられない。
ノックの音に続いて看護師が顔をのぞかせた。
「森谷先生、診察お願いします」
看護師の声は落ち着いているから、さほど深刻な患者ではなさそうだ。