契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
「こんな時こそ、少し食べてからひと休みしなさい」
「面倒だからいいですよ」
佐和の言葉を聞いて、香耶はさっとキッチンに立って拓翔のために準備する。
祖母に言い返す気力もないのか、拓翔がカウンターにやってきて高めのスツールに座った。
ひとり暮らしだから、いつも食事はカウンターですませているのだろう。
「どうぞ」
あまりたくさんは食べられないのではと、香耶が準備したのはおにぎりと味噌汁だけだ。
残りものとはいえ、温めなおしたから湯気をたてている。
「どうも」
目の前に置かれた食べ物を見て、食欲がわいてきたらしい。
拓翔がパクパクと食べ始めたので、香耶はキッチンから離れた。
佐和に頼まれて新聞記事を読んだり、今日の予定を相談している間に拓翔は食事を終えたようだ。
キッチンに戻ると、シンクに食器が置かれていた。残さずきれいに食べてくれている。
カウンターに食器を置いたままでもおかしくはなかったが、香耶は拓翔なりに気を使ってくれたことが嬉しかった。
こんなことしか出来ないが、少しでも拓翔の自分に対する印象がよくなってくれたらと願うばかりだ。