契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話


「彼女なら大丈夫よ」

そう言われても、ほんの数年前にあれこれあったばかりだ。
人間関係に傷ついていた祖母が、あっさり彼女を信用しているのが解せなかった。

「長野の病院で知り合ったの。私が緑内障だって話したら、処方された喘息の薬がよくないって教えてくれたの」

初歩的な医者のミスだろう。緑内障の薬には喘息症状を悪化させるものがあるのだ。

「それで彼女なら安心だと思って、個人的に契約したのよ」

正直、なんだか怪しい話だと思った。
金銭的にゆとりのある未亡人を狙って、彼女から近づいてきた。
もしくは、池辺製薬の元会長夫人と知って媚びているのではないだろうか。
祖母の周囲で一番気をつけなくてはいけないのが金銭問題だ。

「とにかく、心配しないで。とっても信頼できる人だから」
「わかりました」

あまり追求したら、彼女を信頼している祖母の機嫌を損ねそうだ。
地味な外見で本性を隠しているのかもしれないが、看護師としてはきちんと勤めているのだろう。

だが彼女に騙されたり財産を使いこまれたりしたら、祖母はまた傷ついてしまう。
香耶から目を離さないようにしなければと、拓翔は祖母を守ることを最優先させることにした。




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