契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
化粧っ気のない顔には、これといった特徴はないのだが、すっきりと上品な目鼻立ちをしている。
肌もきめ細かくて綺麗だから、化粧映えするだろうなと余計なことまで考えてしまった。
着飾れとは言わないが、せめてもう少し身綺麗にしたらいいのにと感じるくらいだ。
先日など、帰宅したときにちょうど香耶がバスルームから出てきた。
気まずいと思っても動けなくて、廊下で向き合ったままになってしまった。
洗い髪をタオルで拭きながら、どうしようとうろたえている香耶からは清潔な色気を感じる。
「お先にお風呂使わせていただきました」
「ああ、かまわない」
「おやすみなさいませ」
「おやすみ」
短く会話したが、すれ違いざまにふわっとシャンプーの香りがした。
その髪に触れたらどんな手触りだろうと想像してしまう。
香耶は祖母が雇っている看護師だ。
祖母に害を与える存在ではないとわかってきたが、これ以上の関りを持つつもりはない。
それでも香耶のことが頭から離れなくて、拓翔は何をしているのかわからなくなっていた。
三人で暮らし始めてひと月も経つ頃には、拓翔は本来の目的を忘れそうなくらい気持ちが揺らいでいた。