契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
「すぐ行きます」
脱いでいたドクターコートをスクラブの上にひっかけて、拓翔は廊下に出る。
「どうしても先生に診察して欲しいとおっしゃってまして」
看護師は拓翔が食事を中断したと思って、申し訳なさそうな顔をする。
「紹介状は」
「ありませんが、その……」
「病院関係者かな」
エレベーターを降りて、小走りに診察室に向かうが看護師の口は重い。
「誰?」
「先生のおばあ様だそうです」
祖母と聞いて、拓翔は聞き間違いかと絶句した。
「お名前は、池辺佐和さん。喘息発作です」
名前も喘息症状も母方の祖母に間違いないと思うが、どうして東京にいるのだろう。
ここ二年ほどは、軽井沢の別荘に引きこもっていたはずだ。
なぜと思いながら拓翔は診察室のカーテンを開けた。
そこには確かに祖母が座っていて、隣にいる女性がその背中を支えていた。