契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
春はまだ遠い
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どうして拓翔に本音を漏らしてしまったのか、香耶は後悔していた。
「夜景を見ながら走っていた」とでも言い逃れることはできたのに、口から出てきたのは隠してきた本心だったのだ。
居場所のなかった実家、疎遠になった家族。
都合よく香耶を使い、すぐに切り捨ててきた夫という名の他人。
忘れたいのに忘れられない人たちの顔が浮かんできては、香耶の心を苦しめる。
愛されたいとまでは言わないが、家族として接して欲しかった。香耶自身を見て欲しかった。
佐和と出会い、その大きな気持ちに包まれてから少しずつ心の傷は癒されてきた。
それでも不安な気持ちが押し寄せてくる。
どんなに頑張っても、家族や夫に認められなった自分にとらわれるのだ。
だから弱い自分と闘い続けていくしかない。
長野の病院で出会った佐和とは、実は幼い頃に会っていたという縁がある。
「古泉という姓が気になった」という佐和に少しだけ実家の話をしたら、香耶の祖母とは学生時代の親友だったとわかったのだ。