契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
フレンチレストランは老舗の有名店らしく、馴染み客の佐和を丁寧に迎えてくれた。
今日の佐和は落ち着いたグレーのスーツだ。胸元のダイヤモンドのブローチが豪華さを添えている。
一月にお芝居に行った時など服がなくて佐和に借りたくらいだったが、近頃では香耶も化粧をして明るい服を着るようになってきた。
今日はシンプルなワインレッドのワンピースだが、色白の香耶にはよく似合っていた。
個室に通されたのでひと目にもつかない。
ホッと肩の力が抜けた香耶を見て、佐和はクスクスと笑いだした。
「そろそろ、周りを気にするのはやめなさい。堂々としていればいいの」
「はい」
「あなたに非はないのよ。理不尽な家族も太田家も、もう関係ないわ」
佐和だけには、香耶は結婚や離婚のいきさつを打ち明けている。
香耶にしても自分の祖母の親友だったと思うと、話しやすかった。
誰にも言えないままひとりで抱えているより、言葉にすることで救われることもあると佐和に教えられたのだ。
太田家の離れでの暮らしと離婚の原因について詳しくは触れなかったが、佐和のことだからキッチリ調べているだろう。
「合併されてから古泉製薬も安定していて、収益をあげているくらいよ。もう太田家に助けてもらったなんて思わないこと」
「佐和様、色々と調べてくださったんですね」
「これくらいしか、あなたの力になれなくてごめんなさい」
「とんでもないです。ありがとうございます」