契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
それからは佐和のために用意された料理を楽しみ、ふたりでグラスワインを一杯だけ飲んだ。
香耶の祖母との思い出や、亡くなった夫の愚痴など話は尽きなかった。
デザートの前に香耶は拓翔に連絡を入れたが、メッセージを送るだけなのに妙に胸がドキドキする。
一杯のグラスワインで酔ったのかと焦ってしまったくらいだ。
迎えは三十分後くらいがちょうどよさそうだと送ると、すぐに【了解】という二文字が送られてきた。
佐和の体調を気にして、連絡を待ってくれていたのだろう。
すべて食べ終えた頃には「楽しいひと時を過ごせたわ」と佐和も満足げだった。
久しぶりの外食だから佐和の体調が心配だったが、明るい表情を見ていると気晴らしにもなったようだ。
これくらい元気になったのなら、看護師は必要ないだろう。
佐和との暮らしもそろそろ終わりかもしれない。
少し寂しさを感じるが、それ以上にマンションでの日々の楽しさが忘れがたい。
始めのうちは緊張の連続だった。
いつしか香耶は、拓翔の姿を見るだけでときめくようになっていた。
その感情は、別れた夫には感じたことのない甘やかなものだった。