契約結婚はご遠慮いたします ドクターと私の誤解から始まる恋の話
「どうやって暮らしているの。古泉の家に帰ってくればいいのに」
心にもないことだとは、麻友の表情から伝わってくる。
「お母さんが再婚先を探してあげるのにって言ってたわよ」
「麻友、ここで話すのやめてくれないかしら」
「いいじゃない、せっかく会えたんだから」
香耶はそばに佐和がいるから、気が気ではなかった。
礼儀知らずな義妹が恥ずかしいし、他人がいる前でプライベートなことをしゃべる無神経さにもあきれるくらいだ。
佐和は聞こえているだろうに平然としているが、こんな話を聞かされて気分が悪いに違いない。
「いいお相手は難しいかもってお母さんが心配していたわ」
麻友は義姉の悪口をここぞとばかりにしゃべり続け、友人たちは興味ありげな視線を向けてくる。
香耶から強く言ってやめさせようとした時に、優しい声が聞こえた。
「お待たせ、香耶」
名前を呼ばれて振り向くと、拓翔が立っていた。
「遅いわよ、拓翔。おかげで下品な話を延々と聞かされてしまったわ。見苦しいこと」
今まで黙っていた佐和が、ピシリと言い放つ。
「すみません、少し混んでいたので」
拓翔の車はすぐ近くに停めてあった。いつから話を聞いていたのだろう。
後部座席に佐和を座らせてドアを閉めると、どういうわけか香耶を助手席に乗せようとする。